ほんとの出会い

面白い本を探し、読み、紹介します。ネタバレはしません。

貴志祐介 『新世界より』(上・中・下) 講談社

 この本は私がこれまでに読んだ中で(現時点で)最も面白いと考えている小説である。ジャンルはSF。舞台は未来。「常識」の定義が違う世界に突如放り込まれるSF小説は想像力を掻き立てられる大好きなジャンルであるが、そのなかでもピカイチに「分かりやすく面白い」。SF小説においてたまに私が感じる「設定に納得できない」「なんかだるい」要素が一切ない。序盤の、主人公の子供の目で見た無知な中にも確実に感じ取る、この世界への不安・気持ち悪さ。眼鏡をかけずに夜道を歩く時のような、輪郭がはっきりしない恐怖。それらが少しずつ膨らみ、主張し、首をもたげて動き出す。読者は共に何かに追いかけられるような恐怖と快感を覚える。そして、緊張と興奮でへとへとになったクライマックスの舞台で、上中下3冊の文章内に張り巡らされた無数の伏線がひとまとめに手繰り寄せられた瞬間は圧巻である。私は記憶を消せるなら何度でも『新世界より』の結末を忘れて読み直したいと本気で思っている。

 

この本は序盤を分かりやすい文章で読ませた後は斜面を下る雪玉のようなスピードでページが進む、いわゆる典型的な「睡眠不足誘発系」の小説と言って良いであろう。貴志祐介さんの小説は『クリムゾンの迷宮』を読んでも感じるが、(やや乱暴な言い方にはなるが)話に無駄が無い。ストーリーのプロットが異常に面白い。文章に飾り付けが少なく、登場人物が合理的で話の流れに納得ができ、ページが止まらなくなるのだ。そして、(読者にとっては良い意味で、登場人物にとっては文字通りの意味で)「えげつない」。読者のアドレナリンを急上昇させる「恐ろしさ」「苦しみ」「愚かさ」「駆け引き」といった要素を巧妙に操り、先が気になって仕方がなくなる麻薬のような文章を突き付けてくる。漫画家で例えると冨樫義博さんの書く漫画の面白さに近いと個人的には思っている。

 

世界観を理解させ、そして展開させ、そして結末で全てを読者に見せつけ、納得させる。風呂敷の大きさ、拡げ方、そしてたたみ方。全てにおいて納得。満足。味もボリュームも全てPerfectな小説であると断言できる。世の中で私が「羨ましい」と感じる人は沢山いるが、本書をまだ読んでいない方は間違いなくその内の一人である。